産業廃棄物の中でも、特に毒性や爆発性などを持ち、人の健康や生活環境に影響を及ぼす可能性があるものを、特別管理産業廃棄物と言います。そして、特別管理産業廃棄物の一つとして挙げられるのが、「PCB廃棄物」です。このPCB廃棄物には、特別な法律が定められており、その扱いには細心の注意を払わなければなりません。ここでは、PCB廃棄物の概要から、代表的な製品、処理の方法などについて、詳しく解説していきます。
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「産廃担当者が知るべき廃棄物処理法」を1冊にまとめました
新しく産廃担当者となった方向けに、廃棄物処理法を中心に知っておくべきことを簡単に紹介します。
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目次
1. PCB廃棄物
まずはPCB廃棄物とは何なのか、その概要から見て行きましょう。
PCBとは
PCBとは、Poly Chlorinated Biphenyl(ポリ塩化ビフェニル)の略称で、人工的に作られた油状の化学物質のことです。水に溶けにくい、沸点が高い、電気絶縁性が高いなど、化学的に安定した性質を持っていることが特徴です。
PCB廃棄物とは
化学的に安定しているという特徴から、PCBは電気機器の絶縁油や熱交換器の熱媒体、ノンカーボン紙などさまざまな用途で利用されていました。そして、PCBを使った製品が廃棄物となったものをPCB廃棄物と呼び、毒性を有していることから、特別管理産業廃棄物の一つとして分類されています。
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2. PCB廃棄物の毒性
PCBは、脂肪に溶けやすいという性質があり、慢性的な摂取によって体内に蓄積し、吹出物や色素沈着、倦怠感や食欲不振などを引き起こしてしまいます。1968年には、PCBが食用油に混入し、多くの健康被害を発生させたカネミ油症事件が起こるなど、人体にとって非常に危険な存在なのです。
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3. PCBを含む製品
人体への悪影響を及ぼすPCBは、政府や政令の定めに基づいて適切に処理しなければなりません。では、どのような製品にPCBが含まれているのでしょうか。代表的なPCBを含む製品を紹介します。
業務用照明器具(安定器)
力率改善用の安定器にPCB入りコンデンサが使用されている照明器具があります。1957年(昭和32年)から1972年(昭和47年)に製造されたPCBを含む安定器が、オフィスや教室に使用する蛍光灯器具、高天井の建物や道路に使用する水銀灯器具、トンネルに使用する低圧ナトリウム灯器具に使われている可能性があります。
高圧トランス
工場やビルなどに設置される、送電された電気の電圧を変換する高圧トランス(変圧器)には、絶縁油としてPCBが使用されていました。高圧トランス内はPCBとトリクロロベンゼンの混合液で満たされており、50kVAのトランスの場合、約115kgのPCBが含まれていることがあります。
高圧コンデンサ-
電気を一時的に蓄えたり、電圧を調整したりするための装置である高圧コンデンサ-(蓄電器)には、絶縁油としてPCBが使用されていました。100kVAの高圧コンデンサ-の場合、約35kgのPCBが含まれていることがあります。
一部の家庭用電気製品
1953年(昭和28年)から1974年(昭和49年)までの間に生産された電子レンジやルームクーラー、テレビなどの家庭用電気製品の一部に、PCBを含む部品が使われていることがあります。
低濃度PCB廃棄物
柱上トランスやOFケーブルなどの電気機器、橋梁などの塗膜、感圧複写紙、汚泥などに低濃度PCBが含まれている場合があります。
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4. 高濃度PCB廃棄物と低濃度PCB廃棄物
PCB含有機器には、高濃度PCB廃棄物の元となる「PCBを意図的に大量に使用した機器」と低濃度PCB廃棄物の元となる「意図せずにPCBに汚染されてしまった機器」に分かれます。
高濃度PCB廃棄物
高濃度PCB廃棄物の元となる「意図的にPCBを大量に使用した機器」は、上でも紹介した業務用照明器具(安定期)や高圧トランス、高圧コンデンサーなどが該当します。これらが廃棄物となった高濃度PCB廃棄物のPCB濃度は、5,000mg/kg超となります。ただPCBは昭和47年に生産が中止されているので、それ以降に生産された機器には、PCBが高濃度に含まれることはありません。
低濃度(微量)PCB廃棄物
低濃度(微量)PCB廃棄物の元となる「意図せずにPCBに汚染されてしまった機器」は、PCBを使用していないとされてきた電気機器等(トランス・コンデンサ・OFケーブルなど)が該当します。平成14年の国や業界団体等の調査により、微量のPCBに汚染されている可能性があることが判明しました。このように意図せずにPCBで汚染されてしまった機器のPCB濃度は、非常に低いものになります。これらの機器が廃棄物となった低濃度PCB廃棄物のPCB濃度は、0.5超~5,000mg/kgです。低濃度PCB廃棄物のうち微量PCB廃棄物は数10mg/kg程度となります。
低濃度PCB廃棄物は、意図せず機器がPCBに汚染されてしまったことが原因で発生します。そのため、昭和47年までのPCBを使用していないはずの機器や、それ以降の機器が偶発的に低濃度のPCBで汚染されている可能性があります。電気機器等の使用を終えた際には、製造メーカー又は(一社)日本電機工業会にPCB汚染の可能性の有無について確認してください。
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5. PCBの処理
毒性を持ち、特別管理産業廃棄物にも分類されるPCBは、その処理方法などについても、法律によって細かく規定されています。
政府の処理方針
PCBは、その毒性が明らかになったことから、1972年には製造が中止されました。しかし、その処分については民間が主導で行われていたことから、事態の進捗がよろしくありませんでした。そのため、PCB廃棄物の確実かつ適正な処理を推進するため、政府は2001年に「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法」(PCB 特措法)を施行。その法律では、PCB廃棄物保管事業者やPCB製造者、国及び地方公共団体の責務のほか、処分の期限や、保管状況等の公表などが細かく規定されています。
PCB特措法の主な内容は以下の通りです。
- PCB廃棄物保管事業者に対して、政令で定める期間内(平成39年3月31日まで)に処分することを義務化
- PCB廃棄物保管事業者に対して、保管状況等の毎年度の届出を義務化
- 国はPCB廃棄物処理基本計画を策定、都道府県は国の基本計画等に即してPCB廃棄物処理計画を策定
- PCB製造者等は、国及び地方公共団体が実施する施策に協力(PCB廃棄物処理基金への出えん等)
処理方法
PPCBの処理方法は10種類存在します。PCB廃棄物の特性に応じて処理方法を選び、適切に処理する必要があります。それでは、処理方法の特徴について具体的に見ていきましょう。
脱塩素化分解
薬剤などと混合し、脱塩素化反応によってビニフェルなどPCB以外の物質に分解する方法です。廃PCBやPCB処理物の廃油、廃酸、廃アルカリなどに用いられる処理方法です。
水熱酸化分解
高温高圧の水中でPCBを完全分解する方法です。廃PCBや紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、金属くず、陶磁器くず、廃油、廃酸、廃アルカリなど幅広いPCB汚染物もしくは処理物に適応できます。
還元熱化学分解
酸素のない還元的な状態の高温下で、PCBを脱塩素化して分解する方法です。廃PCBや紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、金属くず、陶磁器くず、廃油、廃酸、廃アルカリなど幅広いPCB汚染物もしくは処理物に適応できます。
光分解
紫外線を照射し、光化学反応でPCBを分解する方法です。廃PCBやPCB処理物の廃油、廃酸、廃アルカリなどで用いられます。
プラズマ分解
プラズマによる高温化で分解する方法です。廃PCBやPCB処理物の廃油、廃酸、廃アルカリなどで用いられます。
高温焼却
1,100度以上の高温で焼却し、ダイオキシン類の生成を防いだ上で分解する方法です。廃PCBや紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、金属くず、陶磁器くず、廃油、廃酸、廃アルカリなど幅広いPCB汚染物もしくは処理物に適応できます。
機械化学分解
メカノケミカル反応の原理を活用し、機械的エネルギーを付与する粉砕操作でPCBを分解する方法です。PCB汚染物の紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、金属くず、陶磁器くずに使用されます。
溶融分解
千数百度以上の高温で溶融分解する方法です。PCB汚染物の紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、金属くず、陶磁器くずに使用されます。
洗浄
トランスやコンデンサなどのPCB汚染物を解体し、各部材を溶剤で洗浄する方法です。PCB汚染物やPCB処理物の紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、金属くず、陶磁器くずに使用されます。
分離
真空に近い条件で物質を加熱し、PCBを蒸発させる方法です。内部構造が複雑な電気機器に対しても適用可能で、PCB汚染物やPCB処理物の紙くず、木くず、繊維くず、廃プラ、金属くず、陶磁器くずに使用されます。
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6. PCBのよくある質問
PCBが含まれる機器には、高濃度のものと微量のものがあると聞きました。その違いや分類の仕方を教えてください。
元々意図されてPCBを使用して製造した機器であるかどうかが、高濃度PCB機器と低濃度PCB機器を分ける基準です。意図してPCBを使用した機器が高濃度PCB機器であり、意図せずにPCBが混入した機器を低濃度PCB機器となります。高濃度と低濃度の区切りの濃度は決まっていません。
ただし機器としてではなく、PCB廃棄物となった場合には、高濃度か低濃度かはPCB濃度により分類されます。濃度の基準は5,000mg/kgで、それを超えるものは高濃度PCB廃棄物、それ以下のものは低濃度PCB廃棄物となり、微量PCB廃棄物は数10mg/kg程度となっています。
低濃度PCB機器と高濃度PCB機器を分類する方法はありますか?
PCB機器は1953年から製造が開始され、その毒性が明らかになった1972年に製造が中止されています。そのため、上記の期間に製造された変圧器やコンデンサーなどは、高濃度PCB機器である可能性が高いと言えるでしょう。
また数万件に及ぶ測定例から、国内メーカーが1990年頃までに製造した機器には、PCB汚染の可能性があるとされています。PCB汚染の可能性がないのは、1991年以降に製造されたコンデンサーなどの絶縁油の入れ替えができない機器か、1994年以降に製造された機器で、絶縁油の入れ替えやメンテナンスを行っていない機器と、非常に限定的です。
特定の機器が低濃度PCB機器なのか高濃度PCB機器なのかを正確に判断するためには、機器についている銘板(めいばん)から形式や表記を調べ、製造メーカーの業界団体である一般社団法人日本電機工業会(JEMA)のホームページを参照したり、製造メーカーに直接問い合わせしたりすることで判別することができます。
銘板などが見つからず、上記のような対応ができない場合には、検査機関で成分を行うようにしましょう。検査機関についても、一般社団法人日本電機工業会(JEMA)のホームページに掲載がされています。
PCB廃棄物の無害化処理の責任は誰にありますか?
PCB廃棄物に関する法律であるPCB特措法では、PCB廃棄物の無害化処理の責任は「保管事業者」にあるとされています。産業廃棄物に関する法律である廃棄物処理法では、廃棄物処理の責任は「排出事業者」にあるとされており、PCB廃棄物の処理とは責任の所在が異なるため注意しましょう。
ただし、PCB廃棄物は長期間保管している状況が継続していたことから、保管事業者に処理責任があるとされているだけであり、実際のところは排出事業者と保管事業者が同じ事業者であるケースがほとんどです。
関連ページ:産業廃棄物排出事業者とは
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