電子委託契約を取り巻く法令③ 電子委託契約と印紙税法
第3回は、複数の会員様から実際にご質問があった、電子委託契約書には本当に印紙税がかからないのか、という点についてお話したいと思います。
最初に申し上げておきますと、「er-contract」のサービス内容を説明して、国税庁東京国税局に照会した結果、「er-contract」を利用して作成した契約書は、印紙税の課税対象とはならない旨の見解をいただいており、その点はご安心いただいて結構です。
非課税の法的根拠
しかしながら、非課税であることの法的な根拠は?というと、話は少々面倒になります。
印紙税法に「電子契約書は非課税」である旨の記載はどこにもないからです。
だとすれば、「電子契約書には印紙税がかからない」という、もはや社会通念と言っても差し支えない考え方の根拠はどこにあるのでしょうか。
印紙税法の「文書」とは?
ご承知の通り、印紙税法では課税対象とされる文書の類型が列挙され、収集・運搬委託契約書は1号文書、処分委託契約書は2号文書というふうに分類されます。
文書の形式に対する課税ならば、これらを全く同じ書式で電子契約書に、例えばPDFファイルに置き換えたとしても、やはり収集・運搬委託契約書は1号文書、処分委託契約書は2号文書であることに変わりはなく、課税されてもおかしくはないでしょう。
だとすると、印紙税法の「課税文書」のどの類型に該当するかを判断する以前に、印紙税法が何を対象に、非課税とされるものも含めて「文書」と呼んでいるのかを、まず考えてみる必要がありそうです。
先に述べたとおり、印紙税法には電子契約書が非課税である旨の明文の規定はありませんから、これを検証するには国税庁の見解などを確認していく他に手段はありません。
事例でみる電磁的記録の取り扱い
電子委託契約とは異なりますが、国税庁のホームページに掲載されている以下の解釈の事例をみてみましょう。ここでは「文書」は紙面で交付された文書のみを想定していることが見て取れます。
印紙税法では、紙面という実体がない電磁的記録による文書は、はじめから課税対象として想定していないということになります。
① 請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について
「(電子メールで送信されたPDF形式の注文請書を指して)本注文請書は、申込みに対する応諾文書であり、契約の成立を証するために作成されるものである。しかしながら、(中略)注文請書の現物の交付がなされない以上、たとえ注文請書を電磁的記録に変換した媒体を電子メールで送信したとしても、ファクシミリ通信により送信したものと同様に、課税文書を作成したことにはならないから、印紙税の課税原因は発生しないものと考える。」(国税庁福岡国税局ホームページより抜粋)
② コミットメントライン契約に関して作成する文書に対する印紙税の取扱い
「請求書や領収書をファクシミリや電子メールにより貸付人に対して提出する場合には、実際に文書が交付されませんから、課税物件は存在しないこととなり、印紙税の課税原因は発生しません。また、ファクシミリや電子メールを受信した貸付人がプリントアウトした文書は、コピーした文書と同様のものと認められることから、課税文書としては取り扱われません。」(国税庁ホームページより抜粋)
また、同じ国税庁のホームページには、「最近における印紙税の課税回避等の動きと今後の課税の在り方」という、税務大学校 草間久雄教授の論文が掲載されており、以下のような件があります。
「この電子文書は、可視性・可読性を欠くことから印紙税法上の「文書」には該当しない。」(国税庁ホームページより抜粋)
最後にもうひとつ、第162回通常国会での答弁書にある件をご紹介しておきましょう。
(内閣参質一六二第九号 平成十七年三月十五日)
「五について (前略)文書課税である印紙税においては、電磁的記録により作成されたものについて課税されないこととなるのは御指摘のとおりである。」(参議院ホームページより抜粋)
以上のように、法令の明文で「電子契約書には課税されない」と記載されてはいませんが、電磁的記録によって作成された文書(=電子契約書)は、印紙税法がそもそも課税対象としていないことは明白です。
電子契約書を紙に印刷したら?
また、「er-contract」では契約書がPDF形式の文書として生成されますので、当然、紙面に印刷することもできます。会員様から、契約書の生成過程は電子データのやりとりであっても、紙面に印刷すれば印紙税の課税対象になるのではないかというご質問を受けたこともありますが、この場合に印紙を貼付する必要がないことは国税庁に確認しております。
この場合は、電子署名とタイムスタンプが付与された「電磁的記録」がいわば契約書の本書であって、紙面で出力したものはあくまで「写し」であると解されます。
さて、第1回から今回まで、廃棄物処理法をはじめ「er-contract」に関する主要な法令についてお話ししましたので、次回からはこのコラムの本旨に戻り、産業廃棄物の処理委託や電子マニフェストの運用をめぐる法解釈などについて、会員様からお問合せのあった事例を中心にご紹介していくことにします。
今後ともよろしくお願いいたします。
文責:株式会社リバスタ 芥田充弘
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